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振り返ると、暗い色のワンピースに身を包んだおばあさんが、私の指先を掴んでいた。
「えっ」
知らぬ間にこの人にぶつかっていたのだろうか。何か持ち物を壊してしまったのだろうか。私は戸惑いながら、ひんやりとパサついた手の感触を受け止める。
「ひどい顔をしているわよ。しょぼしょぼしちゃって、ああ、苛立たしい!そんなんじゃ誰にも相手にされないわ。」
おばあさんのものであるシルバーの瞳が、獲物を見つけた蛙のようにギラっと光る。
変な人に絡まれてしまった。変な上に、とてつもなく失礼な人に。顔の調子が悪いことなんて、自分で百も承知だ。それでも何とか頑張ろうと思っているのに。手を振りほどいて歩きだしてしまおうか。
「これから大切な用があるのでしょう。こっちにいらっしゃい。今ならまだ間に合うわ。」
おばあさんは、そう言って私の手を引っ張った。
「えっ、な、なんですか。」
老婆だと思っていたのに、意外と力が強い。突然の展開に頭の追いつかない私はなすすべもなく、道の脇の公衆電話ボックスへと引きずり込まれた。
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