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「さてと、これは仕立て甲斐があるわねえ。なんていったて素材は悪くないんだから。」 ぴしゃり、と電話ボックスの扉を閉め、窮屈な空間に見知らぬ老婆と密着した状態で閉じ込められる。これから一体何をされるのだろうか。隙をついてこの扉を開けられるだろうか。早く出ないと、練習する時間が無くなるどころか、定時にも遅れてしまう。 「3分と7秒といったところかしらね。」 おばあさんは、革製の小ぶりなアタッシュケースを緑色の電話機の上に乗せて言った。3分と7秒すれば解放されるということだろうか。私の心を読んでそう言ったのだろうか。少し気味が悪い。 「どれどれ、見せてちょうだい。」 おばあさんは私の両頬を掴み、自分と私の目の高さを合わせた。ベビーパウダーのような甘い香りが微かに漂い、皺だらけの乾燥した掌に顔を包まれる。私も恐る恐るおばあさんのほうを見る。魔女みたいにつん、と尖った鼻に、銀色に輝く瞳。櫛で丁寧に撫でつけられた白髪のショートヘアと濃い紫色のワンピースはとても良く似合ていた。まるでおとぎ話に出てくる仙女みたいだ。さっきからぶつぶつと何かを呟いているが、私には何を言っているのか全く聞き取ることが出来ない。前歯の裏に張り付いている人物に話しかけているかのように顎を動かしながら、私の顔をあっちこっちと角度を変えて観察している。さすがに居心地が悪くなって、私は電話ボックスの外に目を向けた。こんなところに2人でくっついて入り込んでいるなんて、外から見ればものすごく怪しいと思うのに、通行人の誰一人としてこちらに目を向ける人はいなかった。そういえば、公衆電話なんて最近は使う人がめったにいないから、みんな電話ボックス自体が視界に入らないのかも知れない。 「ふむふむ。なるほど、なるほどなるほど…それじゃあやっぱり…」 おばあさんはこちらに顔を向けたまま電話機の上まで手を伸ばし、パチン、と指を鳴らすように、アタッシュケースの蓋を開けた。気になって中を覗くと、小さく折り畳まれた色とりどりの布が、公園の花壇に咲く花のように四角い枠の内側にきちんと並んでいた。
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