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鏡から顔を離し、おばあさんを見つめた。
「ありがとうございます。ちょっとしたアイテムでこんなに印象が変わるんですね。私、知りませんでした。すごいです。」
おばあさんは、鼻歌でも歌うみたいにフフっと小さく笑った。
「変わったのはアイテムを足したからっていうのもあるんだけどね。」
楽しそうに指をクルクルと回しながら一呼吸置いて、私を正面から見据える。
「一番大きいのはあなたの心の変化よ。」
銀色の湖のように濡れた瞳が、私の両目を捉えた。
「私の心?」
「そう。このスカーフを広げて見せた時、一目であなたがこれを気に入ったのが分かったの。好きなものを身に着ける時って、心が幸せになるでしょ。不安な時でもこれがあればきっと自分は大丈夫だって、自信も湧いてくるはずよ。」
「確かに、そうかも。」
胸元でつやつやと存在感を放つスカーフをそっと指でなぞる。嬉しくて、今日はずっと触ってしまいそうだ。
「コースの上をがむしゃらに走るのもいいけどね、せっかくだもの、もっと景色とか、すれ違う人との会話とかも楽しんでみたらいいじゃない。それで、本当にへとへとに疲れた時こそ、ほんの少しだけ足を止めてみて。たったの3分、いいえ10秒だっていいわ。そして鏡を覗いて自分に尋ねてみるの、『私は楽しそうに見える?』って。」
そうか、もっと楽しめばいいのか。仕事を楽しむことって、夢中になって仕事に取り組むことだけじゃないんだ。仕事をしている私の世界に、少しずつ好きなものを集めていくことなのか。せっかく憧れていた仕事ができるんだから、プレッシャーなんてはねのけるくらい楽しめばいいんだ。
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