始まりの

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始まりの

「好きです! 付き合ってください!」  勢いよく頭を下げて手を突き出す目の前の男。一年間この高校に通ってきたけれども、話したことがあるかすら怪しい、全く記憶にない男子。  まだ五月の終わり頃だと言うのにもう陽射しはきつい。影を作るものもない屋上のど真ん中。告白するには絶好の場所なのかもしれないけれど、この陽射しの中女の子を呼び出しのはちょっと良くないと思う。  わざわざ放課後に呼び出され、単純に告白されるだけ。しかも、知らない相手で、陽射しもきつくて暑い。  こんな状態で乗り気になるはずもないので、さっさと断って帰ろう。呼び出された時点でこうなることはわかっていたけれども、さすがに放置して一人ここで待たせておくのは悪いと思って来たのだが、結果として来ない方がよかったのかもしれない。 「ごめんなさい。付き合う気はないわ」  なにかを言ってくる前にさっさと振り返って歩き出す。悲しそうな顔を見るのも嫌だし、諦めずに食い下がられても嫌なので、少し早足で屋上を後にした。  建物の中に入れば暑さは幾分と和らぐ。開けられた窓から入ってくる風は心地よく、面倒だったと少しざわつく心を落ち着かせてくれる。     
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