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その人物、彼は人と比べて社交的というわけでもなかった。女性に対して軽いユーモアを飛ばすことができるというわけでもない。
それだけ聞くと彼がずいぶん退屈な人物だと感じるかもしれない。しかし、彼にはほかの人にはない魅力を内面に持っていた。
静かな男だが、気配りは十分にできたし、余計なことはあまり口にしない。仲間内でだけでは少しとぼけたことを言うことも多かった。落ち着きという深い湖に、冗談という塩を混ぜて、彼という海は出来ていると僕はそう感じた。悲しいことに、僕にしかその魅力は映らないようだったが。
僕の中のもう一人が声を出す。影は、一人でいるときの僕にあるぽっかりと空いた空洞を知っていて、その空間に潜んでいる。その影は言う。
「君が彼に頼るのは、君が弱いから依存していることに変わりない。彼が君を受け入れているのは、彼が優しすぎるために生まれた同情だ。君は彼に依存していくわけにもいかない、なぜなら君は彼ではないし、いつかどちらかは先に死んでしまうからさ。それに君は、彼は耐えられるのかい? 少なくともどちらかが死ぬまでには関係は壊れるだろうけどね」
その影は、少しでも僕に闇が生じると、休みなく襲ってきた。ただの一度も、影がいないということはなかった。影は僕で、僕が影なのだ。
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