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心に影が落ちる。「君は昔からよく大口を叩いたよな。やれ自分は出来る側の人間だ、少数派なのだ。お前らとは違う。そういうことばっかりだった。口にはしていなかったけど、僕にはよく聞こえていたよ。それで、世界の寵児である君は、今何をしている? え?なんだって、嘘だろ。おいおい!ただのサラリーマンなんて!結局君は…」
その声はまだ続いていたが、彼の呼びかけで意識が戻されていく。それに伴って、影の言葉も重みを失っていく。忘れ去られていく。彼が言う。
「たまには、旅行にでも行ってみるといいかもしれないな。今度行こうじゃないか」
後で思うと、彼は世間話の一環として言ったのだとわかるが、その時はあまり分からなかった。視野が狭くなっていたのだ。
「そうだな、また今度…。いや、今から行こう。お前は明日仕事があるか?」僕は少し身を乗り出した。
彼はそんな僕の様子に少なからず驚いていたが、次の瞬間には、旅行に行くかという問いに頷いていた。
こうして、僕たちの一日半の逃避行が始まったのだった。
目を覚ますと、無駄に豪華な照明があった。ズキズキと痛む頭を押さえながら
ベッドから上半身を起こすと、右隣りに見知らぬ女性が裸で寝ていた。スース―と心地よさそうに寝息を立てている。困惑して携帯を手で探し当てる。どうやら日曜の朝であることが分かった。
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