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1章
カタカタとキーボードを叩く。叩き続ける。社会人になってもう十年以上は経っただろうか。
今日の分の仕事は今にも終わろうとしている。pcのモニターに映る時刻は午後八時を指して、一日の終わりへと向かおうとしている。腹の出た、額に油が浮かんでいる上司に一言添えてから会社を出る。そうやってまた僕の一日は終わっていった。
目を覚ましたのは翌日、土曜日の午前九時ごろだった。トーストを焼いて、バターを塗り、牛乳と共に流し込む。頭が痛かった。今のままではいけない、そう訴えかけるような痛みだった。
さらに僕を追い立てるように、ベッドの傍に置いてあった携帯がヴィンヴィンと歌う。女性の知り合いから何件も通知が届いている。学生時代の僕だったら喜んで返事して、ランチにでも行っただろうが、いかんせん今は余裕がない。
今の僕に必要なものは、自由に空を羽ばたく鳥に必要な、羽を休める木のような、癒しだった。彼女たちも僕を癒してくれる存在であったが、性行為は、また別ベクトルの話だ。まったく違う方向を向いている。
通知を非表示にして保留にすることで、ひとまずの安寧を得る。そして僕はある人物に連絡を送った。
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