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「だったら、はっきり断れよ。佐藤が聞いたらぶたれるかもしれんぞ」
「いやあ、それがなかなか」
「いいか、女の中には、はっきり言わないとわからん奴もいるんだ。思わせぶりな態度とるほうが惨いぞ」
「ほー、太郎が女性について語るとは経験談かい?」
「まあな」
小説の経験だがな。
「そうだねえ、頑張ってみるよ」
そういう雄清は飄飄としていた。
次の日は部室で本を読んでいた。秋雨の降る日、放課後の余暇をじっくりと楽しんでいたのだ。綿貫は向かいで宿題をしている。佐藤は来ていないし、雄清もいない。佐藤のことはわからないが、雄清と教室で別れた時、確かに部室に行くと言っていたので、そろそろ来てもいい頃なんだが。
だが、雄清がいなければ困るというわけではないので俺の意識は本へと没入していった。
何分か経ってから、がらりと戸が開き、佐藤が入ってきた。
「ねえ深山、雄くんから変なビデオ送られてきて、メールしても何も返信が来ないんだけど」
いちいち報告することでもないのに。部室に入ってきたとたんぎゃあぎゃあ話し出すのはこいつの悪い癖だ。
「変なビデオ?お前が喜びそうなやつか?」
読書を中断した腹いせに軽口をたたく。
「喜ばないっ!」
過剰に反応するのはどうかと思う。
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