第五章 暗躍(続き)

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◇  ようやく秦盟が薊花のもとを訪れたのは、その二日後、明日が初めての登城という日であった。 「すまなかった、ほうっておく形になってしまって」  秦盟は、素直にわびた。  薊花は、むくれようとしたのだが、来てくれただけでうれしく、胸がいっぱいになってしまって、相手を怒る気になれなかった。  ひとしきりの抱擁のあと、秦盟が言う。 「うわさは届いているだろうか。  杏が、赫に出兵したそうだ」  薊花は、はっとした。 「初耳です」 「そうか」  しばらくの沈黙。 「また、箭河が、血に染まる。  円璧先生の思想によれば、時の皇王が天命を失っているかを解釈するときに、めやすにするものがあるんだ。  民のことを思わず、みだりに戦をするのは、その一つ。  杏京からは遠いから、どれほどかはわからないが、昨年は南原で長雨があり、不作、飢饉になり、さらに疫病が発生した。  食糧を求めて一揆もあったようだ。見るに見かねた冊駐省の役人が、ひそかに倉庫の防備をゆるくして襲いやすくしたとかいう話もある。それに手ひどい制裁を加えた上、さらに重税を課したとか。  皇王が皇后と愛妃に囲まれて贅沢三昧をし、官僚たちにすべてをまかせているため、賄賂は横行し、閥族が各地で略奪を繰り返すのも放置したままだ。さらに、長城の労役に人々をかり出して、暮らしが成り立たないほどにまで絞り取る。  それで高まった不満の声を消すため、戦に民の関心を向けさせようと赫に出兵したらしい」  秦盟は、気がつくと、十失を数えていた。  長雨、不作、飢饉、疫病、一揆。  官吏が反し、賄賂は横行し、閥族が略奪する。  民を思わず重い税や極度の労役を課し、自身は贅沢三昧。  そして、戦を起こした。
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