第六章 黒刃の剣

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「……及第者は、三拝せよ!」  厳粛な声がかかると、広間に整列して並んだ、礼服姿も初々しい今回の登階及第(しかんごうかく)者たちが、一斉にひれふし、体を起こし、またひれふし、また体を起こす……  壇上の玉座で拝礼を受けているのは、(きょう)の皇王、李阿明。  皇王の服をまとっているというよりも、豪奢な刺繍の中に埋もれているといったほうが正しいような少年王である。  今日こそが、三年に一度の厳しい試験に合格した者たちが、初めて皇王に目通りする初参内の日。  今年の合格者たちは、今日から官吏となり、皇王に忠誠を捧げ、国の政治を動かす任につく。  拝礼しているみなは、同じように礼服をまとい、幅広の帯をしめ、冠をつけている。その冠に、一様に花を挿しているところが、通常の儀礼とは異なる。その花は、一枝か、多くても二枝。造花であれば、金の芙蓉花、銀の玉蘭花。生花であれば、梅や桃など、見栄えのする風流なものである。  花帽(かぼう)という、この栄誉の時のためだけの慣習だ。  合格者の最前列の中央に、秦盟はいた。  最も優秀な成績で合格した者がつく位置だ。  秦盟が花帽につけている花は、他のみなのつけているものとは、大きく異なっていた。  がくが大きくて、花びらは黒っぽい上、少し見えているだけ。  薊の花、薊花。  秦盟自身も、並んでいる他のみなとは、少し毛色が違う。  色はやや黒く、目つきは厳しい。均整の取れた体つき、きびきびとした身のこなし、何がしかの武芸をたしなんでいるのがはっきりとわかる。 「筆頭及第者・秦盟、答辞を述べよ!」  かけられた声とともに、秦盟が前に進み出る。  三歩、四歩、五歩…… ゆったりと壇上の皇王に近づく。  壇の前で跪拝し、答辞を述べるはずであった。  だが、秦盟の足が、突如、駆け足になり、ひらりと、壇上に跳びあがる。  と同時に、右手が花帽の薊花にのびた。  キラッと空気が光ったかと思うと、その手には小ぶりの、黒刃の剣が握られていた。  悲鳴があがり、近衛兵たちが動き出す。  その、みなの目前で、皇王に刃が突きつけられた。
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