繰り返される絶望の朝

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溢れそうになる涙を堪えて目を合わせると、聡い彼は私の眦を親指でなぞった。 「また何か悲しいことを思い出したのか」 私がこうした態度を取るのは初めてではない。いい加減にしろと呆れられてもおかしくはないというのに、彼はどこまでも優しかった。 前世の貴方とのことを思い出していたと言えれば、思い出して欲しいと泣き喚けたら、どんなに良いことか。 しかし、それはできない。だから私はいつも通りの言葉を返すのだ。 「違うわ、幸せなことを思い出していたの」 彼は痛ましいものを見るような目で私を見る。私が過去の、前世のことを思い出していると、彼は決まってこの目をした。 彼はきっとそれは悲しいことなのだと指摘したいのだ。私が幸せなことだと言い張るから、その気持ちを汲んで口を噤んでくれる。何を思い出しているのか、詳しいことも聞かないでくれる。 その優しさが嬉しくて、私は今日も真実を語らずにいられた。 「何度も同じこと言うけど、俺は味方だからな」 昔と同じ容姿で、声で、その手でそんなことを言う。眦に触れたままの指先は熱い。 「頼ってくれよ。力になるから」 真摯な色を湛えた瞳が私をまっすぐに見つめていた。昔と変わらないその色が愛おしくて、私は唇を綻ばせた。 「ありがとう。浩太の優しいところ、大好きよ」 私の心からの言葉に、彼は安堵したように微笑んだ。 --ああ、なんて罪深い愛しい人。何も知らないまま、何にも気づかないまま、私に笑いかけるのだから。
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