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この日、私が死ぬ
賛否両論ある自殺デバイスの発売直後、それを使って中学生の少女が自殺――そのニュース性の高さから、彼女の死は多くの人の注目するところとなった。
特に聞くつもりがなくとも、情報は勝手に入ってきた。
彼女の携帯電話には、遺書が残されていたらしい。
それによれば、彼女は母親とその不倫相手との間に生まれた不義の子であり、最近になってそれを知った父親――遺伝上は父親ではないわけだが――から口に出すのもおぞましい類いの虐待を受けていたのだという。
そんな事情を打ち明けられるような相手もおらず、外では普段通りに振る舞ってきたが、次第に内心では自分より下に見ていた幼なじみ――つまり私のことだ――の幸せそうな様子に苛立つようになってきた。
自分はこんなにも不幸なのに、何故こいつはこんなにも幸せそうなのか。
こいつがいじめられそうになった時は自分が助けてやったのに、何故自分は誰も助けてくれないのか。
自分より下であるはずのこいつは、もっと不幸でなくてはならない。
そんな風にして、私へのいじめは始まったのだそうだ。
だが、そうして始めた私へのいじめが、結果的には彼女自身の自殺の引き金となった。ぶちまけられた私の鞄の中身に自殺デバイスがあるのを目にした時、そこでようやく彼女は、自分が私をそこまで追い詰めていたことに気づいた。
そして、その時に悟ったのだ。
自分はもうとっくに、いつか誰かが助けてくれる『可哀想な被害者』ではなくなってしまっていた。たとえどれほど悲惨な目にあっていても、そうなって当然だと見做される『悪』の側になってしまっていたのだ――と。
それを知って絶望した彼女は、死を選んだのだ。
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