その日、彼女が死んだ

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 自殺デバイスが販売されるようになって間もなく、彼女が死んだ。  最初にそのデバイスの話を聞いた時には、想像もできなかったことだ。それを使って死ぬことになるのは間違いなく私だろうと、そう思っていたのだ。  理由はしごくありふれたものだ。  中学校でのいじめである。  その内容についても、わざわざ具体的に語るほどの特筆すべき点は無い。中学生のいじめと聞いて普通に想像できる類いのものだと考えて良いと思う。  あえて珍しい点を挙げるならば、いじめの首謀者が私の幼なじみであり、元々は親友でもあったことくらいだろうか。  いや、どうだろう。仲の良かった者同士の間でいじめが始まるというのだって、むしろよくある話なのだろうか。  もう一つ言うならば、彼女の方も私の方を親友と考えていたとは限らない。子分とか付き人、引き立て役、あるいは愛玩動物(ペット)くらいに思っていたのかもしれない。  まあ少なくともいじめが始まるまでの間は彼女が私に何かを命じるような関係ではなかったし、子分ということはなかったと思う。  しかし当人にその気がなくとも、引き立て役にはなっていただろう。  実際、彼女と私の間には、それだけの差があった。  何一つとして自慢できるような取り柄が無い私とは違い、容貌は美しく家柄も良い彼女はまさに生まれながらにして選ばれし者だった。  彼女自身の努力を否定するわけではないが、彼女が勉学とスポーツの両方で優れた成績を維持していたのは、家が裕福で幼少時から優秀な家庭教師がつけられていたという点と無関係ではないだろう。
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