その日、彼女が死んだ

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 自殺デバイスだ。  最初は、私が落とした物を拾いでもしたのかと思った。だが、すぐにそうではないと気がつく。  私が落としたのは一つの部品だけだが、彼女の手中にあるのはデバイス全体だった。  しかしどういうことだ。何故いじめる側である彼女がそんな物を持っている? 使う予定も無いのに興味本位で買えるほど安いものではないはずなのだが。 「それ……」  私がデバイスを指さすと、彼女はそれをしっかりと握りしめたまま後退った。 「と、止めないで!」  その言葉を聞いて、私はしらけた気分になった。  本当に死にたいのであり、止めて欲しくないのであれば、キットはたまたま拾ったなどと誤魔化して、あたかも自殺する気などさらさら無いが如く装えば良いではないか。  止めないで、などとわざわざ言うということは、即ちその逆である。  本当は死にたいのではなく、止めて欲しいのだ。  厚かましい――そう思った。
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