第一章 胎動

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「そらええこっちゃがな、ただで半導体の勉強が出来るんやさかいな」  真田は劉にそう言うと、彼女と一緒に通路を歩き始めた。  ※クラス一〇〇はクリーンルームの清浄度を表す。アメリカの軍事規格で〇・五ミクロンメートルの塵が一立方フィートの空間に百個未満しか無い超清浄な環境である事を示す。  ※拡散は半導体製造前工程の事。ウエハプロセスとも言う。  劉麗華は上海CMD有限公司の美人通訳だ。容姿は長身で細身、見事な長い黒髪は頭の後ろで束ねている。彼女は真田の依頼を受けて、本日の午後に予定されている会議の通訳として中国から来日している。 「劉さん、せっかくの出張やさかい、日本の半導体組立工程を見学して行くか?」 「真田さん、部外者が工程見学してもいいんですか?」 「ああ、後工程だけやけどな、前工程は情報セキュリティAAAやさかい無理や」 「是非、お願いします。日本の組立量産工程が見られるなんて機会がありませんから」 「いや、量産工程は無い、汎用半導体の量産工程は全て海外に移管したんや、あるのは試作工程だけや」 「ええっ、日本は量産をしていないのですか?」 「そうや、量産は全て海外や、日本で作ってもコストが合わへんねん」 「そうなんだ、知らなかったわ」     
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