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 塔の上にはかみさまが住んでいる。  コプトテルメスが顔を上げると、透き通った空の中に長大な壁が立っていた。上の端は見えないが横の端は見えて、コプトテルメスはこの塔が三角柱でできていることを知っていた。親友が教えてくれたので。  塔の周りは光がむらを作っている。地面を見ていては解らない複雑なグラデーションは美しい。そして、そこに食い込んでいく塔も、なお美しい。だからコプトテルメスはしばしばコロニーの外で空を見上げるし、毎日塔に向かって祈りを捧げている。  さて、コプトテルメスがいつものように空と塔を見ていると、「やあ」というしゃがれ声が聞こえてきた。 「相変わらず、仕事をさぼっているのかい」  振り返ると、そこには丸い背中の親友がいる。アルマディリディウムという名のかれは、くぷりと笑ってコプトテルメスのとなりに座った。 「ぼくはさぼってなんていないよ。仕事がないだけだ」  名誉のために抗議だけして、すぐにコプトテルメスは視線を戻した。塔の一番上には大きな窓があり、そこからレースカーテンが時折ひらりと舞い踊る。その動きでさえも、光を拡げ、乱し、コプトテルメスを眩惑させるのだった。  そうして思考の海に浮かぶのは、かみさまがあの薄い布の向こうからやってこないかという期待だ。かみさま。かみさま。コプトテルメスは気がつけば呟いていた。かみさま、今日も来てください。 「昨日も来たのだから、今日は来ないだろうよ」 「そうとも限らないでしょう?」 「かみさまは、二日われわれのために働き、一日休まれる。そう教わらなかったか?」 「一昨日来たかなんて、覚えてないよ」 「やれやれ」  アルマディリディウムは呆れたように返した。かれがどんな顔をしているのか、コプトテルメスには解らなかった。ずっと上を見ていたので。一方、アルマディリディウムもコプトテルメスがどんな顔をしているのかは解らない。彼は単純に、目が見えないので。その代わり、他の感覚が鋭い。それに、長く生きているのでとてもたくさんの知識を持っているのだ。たとえば、塔が三角柱であることとか。 「あ」  コプトテルメスは強い刺激に声をあげた。もちろん、そんな理由は一つしかない。  かれが現れたのだ。
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