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揺れる布がゆっくりと取り払われて、窓の中から顔が現れた。その造形は実のところ、はっきりとは解らない。なにしろ、塔があまりに高すぎて、かれとの距離が大きいのだ。うすぼんやりと、それが顔であることが解る程度だ。だが、かれにはコプトテルメスにも解るはっきりとした特徴がある。
それは、編まれた長い長い髪だった。
かれは今日も、その髪を窓の外へと垂らした。まるで、塔の下にいるコプトテルメスたちに届けるかのようだった。濃い色のそれは、薄い色の塔の壁によく映える。それに、昨日よりも少し伸びたように思えた。それはコプトテルメスの妄想や願望かもしれない。だが、夢を見つづける。かみさまなのだから、一日でたくさん伸びるかもしれないし。
閑話休題。かみさまは、しばらく髪を垂らしたままでいたあと、頭をあげた。そうして、一度塔の中へ戻っていったかと思うと、今度は何かを手に持って戻ってきた。ぱっと手を離す。あっという間に落ちてくる。
コプトテルメスたちのすぐそばに落ちたのは、赤い果実のようだった。もちろん、コプトテルメスはすぐさまその果実を手に取った。アルマディリディウムは目ではなく、他の器官でその果実を感じ取っていただろうが、特に奪おうという気はないようだった。熱狂的な親友に譲ってくれたのかもしれない。
しゃくしゃくとコプトテルメスがかみさまの賜りものを食べていると、空から二つの影が舞い降りてきた。
それは、天使だった。
コプトテルメスは知っている。かれらは、塔の上に住んでいるかみさまに代わって、そのことばを伝えてくれるのだ。
真っ黒なドレスをふわふわ翻し、かれらはコプトテルメスたちの近くまでやってきた。
そうして、ひとつも感情を浮かべないまま、交互に預言を口にした。
「ここのところ、雨が少なく飢えがひどいだろうから、と」
「ここのところ、果実をなんじらに渡していなかったから、と」
コプトテルメスは感激した。どちらが本当だったとしても、あるいはどちらも本当だったとしても、とても嬉しいことばだった。かみさまの心優しさがじぃんとしみた。
天使たちはコプトテルメスの賛辞をひとしきり聞くと、近くのジュースを飲んでその場を去った。
コプトテルメスは感極まって、アルマディリディウムにいつものおねだりをした。
「ねえね、かみさまに会ったときのお話をしてよ」
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