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   梅雨の時期になった。最近は、乾いていた大地は潤い、草木には水が常にしたたっている。  今日は珍しくよく晴れていた。空のグラデーションが濃い。  コプトテルメスは期待にそわそわしながら、塔を見ていた。夢中になって、となりにアルマディリディウムが来ていることもしばらく気づけないほどだった。 「なあ」  親友は、重い口調で話しかけてきた。 「今日はもう諦めたらどうだ?」  長くなった日が、とうとう西に傾いてきていた。 「どうして? もしかしたら、かみさまが来るかもしれないじゃない」 「来ないよ。こんな遅くには来ないよ」 「解らないよ。ずっと来ていないんだから、ちょっと遅くなってでも来るかもしれない。それに、ようやく雨が止んだんだ。かみさまだって外を見たいでしょう」 「なあ」  かれは皮肉屋のくせ、今はどこか辛そうだ。 「もう、ひとつき顔を出していないんだ。諦めよう」 「ぼくたちが見逃しているだけかもしれない」  意固地な口調でコプトテルメスは言った。塔から視線を外さずに。  そうしていると、塔の近くをひらひらと黒いものが飛んでいるのが見えた。天使だった。 「おぉい!」  コプトテルメスは力の限り叫んだ。天使たちは最初のうち、全く気づいていないようだったが、コプトテルメスが何度も呼んでいると、やがてふらふら蛇行しながら降りてきた。  かれらは相変わらずの無感情だったが、いつもと違ってコプトテルメスたちの方は見向きもせずに、お互いをじっと見やっていた。まるで、困っているみたいだ、とコプトテルメスは思った。  しかし、かれらの気持ちを忖度している場合ではないのだ。 「ねえね、かみさまはどうしたの? 今日は雨降りじゃないよ」  しばらく天使たちは黙っていた。やがて、片方が喋り、もう片方も喋った。 「なんじらのことを忘れた」 「なんじらのことを嫌った」  それは、どちらが本当だったとしても、あるいはどちらも本当だったとしても、とても辛いことばだった。コプトテルメスは大きな目を更に大きくした。身体中が熱く感じた。だが、そんなからだの反応があっても、苦しいという気持ちは全く解消されなかった。  天使たちは、コプトテルメスのことをもう無視してしまった。再びひらひら蛇行して、空へと舞い上がっていった。 「なあ」  と、アルマディリディウムが言った。
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