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「もう諦めようぜ。やっぱり、かみさまに何かあったんだよ。ここに来なくなる前のこと、話しただろう?」  コプトテルメスは、もちろん、覚えていた。  アルマディリディウムはある日、誰かと誰かが言い争っているのを聞いた。争っている以上、それはひとりではない。二種類の声を聞いたのだが、そのうちの片方が、かつて聞いたかみさまの声に似ていると思ったのだ。  そして、それ以降、争いの音を頻繁に拾うようになった。 「昨日も聞いた。そして、初めの争い以降、かみさまが現れなくなった。関係があると思わないかい?」 「嫌だ!」  コプトテルメスは叫んだ。天使たちのことばが、アルマディリディウムのことばが、ぐるぐると思考の海をかき混ぜて、その度に液体が粘ついて気持ち悪くなっていくのだ。ことばを追い出そうとしても、すぐに戻ってきてしまう。 「忘れられたとしても、嫌われたとしても、それじゃあ、ぼくらはかみさまを失ってしまうってことなの?」 「そうかもしれない」  アルマディリディウムは冷静に返した。 「そして、もしそうなら、おれたちはどうやって生き残るかを考えなければいけない。かみさまがいないのならば、水も、食料も、足りなくなるだろう」 「怖いことを言わないでよ!」  今や、コプトテルメスは恐怖に全てを覆われていた。ぶんぶん頭を振って、なんとかことばと感情をどこかへやってしまおうとしていた。無理だった。ああ。ああ。ああ!  そうして、とうとう熱が臨界点を超えてしまった。 「かみさまがぼくたちを忘れているというのなら、必ず思い出させてやろう。かみさまがぼくたちを嫌っているというのなら、必ず報いを受けさせよう。ぼくたちを愛さなかったことを、どうしても後悔させてやる」 「コプトテルメス?」  アルマディリディウムが不思議そうに言った。おそるおそるといった口調だった。一方、コプトテルメスはどうしてか楽しくなってきているのを感じた。思考が熱くて熱くて、何を言っているのかさえ解らなかった。 「ねえ、アルマディリディウム。ぼくは、かならずかみさまを取り返してみせるよ」 「どうやって?」 「ぼくらの女王が、計画をしているんだ」  コプトテルメスはうっとりと言った。つい十数秒前まで嫌悪していたものが、突然反転したのが気持ち悪くて気持ち良かった。
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