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少しだけ笑った彼を見て、光一は貴紘のことを自分と同じ普通の男の子だと感じた。確かに学校をさぼったり漫画を持ってきたりと誉められた行動ではないが、根っこの部分は自分達とまるで変わらない、ただの少年だ。周りの友達は一部、彼を極端に怖がっているけれど。
「どうしてそんなに早く来るの?」
「別に……理由なんかないけど」
そして予鈴がなった。貴絋は席から立つと、こちらをチラチラと窺っているその他二名の視線を感じながら「ほら、行けよ。お前のこと待ってる」と言った。
光一は何とも言えない気持ちを抱えながら、のろのろと手に持った動物図鑑を棚に返した。
□
お昼の休憩。
教室は人気が少なかった。クラスの約半数の活発な生徒たちはグラウンドへ、その他の生徒は空気の重みに耐えきれず、他の場所へ移動したからだ。
今、この部屋には二人しかいない。
松葉光一と、彼のクラスの担任、則本花枝だ。
二人の間にはピリピリとした空気が充満している。二つの絶対に曲げられない魂の叫びがぶつかり合い、妙な熱気さえ感じられた。
「光一くん、今週は給食を残さず食べる週間だって言ったよね?」
光一の目の前には、ほとんど食べ終えた皿が見える。だが、まったく手をつけられずただひとつ残されている鯖の切り身がそこに存在していた。
「……僕は前世で鯖に追い回されて死亡しました。その時の魂の記憶が、どうしても僕にこの魚を食べさせないと言うのです」
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