リンゴとさつまいものデニッシュ

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「さっきのってリンゴとさつまいものやつ? まだあるけど、君はこういうの食べないっていってなかった?」 「光一。オレには食べさせないってこと? 何でそんないじわる言うの?」 「君なんか変だよ! 0距離でメンチ切らないでよ怖いから!」 「あっ、ごめん。大人げなかったね」 「同い年だけどね」  貴絋は光一からりんごのパンを渡してもらうと、とても嬉しそうに笑った。さらに右腕を上にあげて「イェーイ」と喜んだ。 「本当にくれんの? 嬉しい! さっきからこれ超狙ってたんだよねー。頂きまーす!」  多重人格という言葉がある。  光一はこの現象について興味はあったがまだ深く調べたことはなかった。この日、この言葉を知るきっかけを貴絋からもらったのだった。 「超おいしいー! 最高じゃーん!」  屈託のない笑顔を振り撒く貴絋を見ていると、まるで別人のようだった。緊張とも恐怖とも言いがたい何か別の圧迫感のようなものが、光一の肺の辺りを緩やかに締め付けてくる。  思わず疑問が口をついて飛び出した。 「君、誰なの」  貴絋は親指についたクリームを舐めると、光一をじっと見据えて言った。 「誰にもナイショな」  そうしてまたにこりと笑うと、崩れるようにノートの上に倒れ込む。 「え……っ!? 大丈夫!?」     
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