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貴絋の顔を覗き込むと、今度は目を擦りながら身を起こす。
「ああ……俺寝ちまったんだ」
何事もなかったように大きく伸びをして、貴絋は光一を見た。
「なんだよ鳩がグレネードランチャー食らったような顔して」
「驚くどころか死ぬ」
貴絋は目の前のノートをつまらなそうにパラパラとめくっている。まるで宿題にとりかかる気配がない。
光一は思い返す。いつか体育倉庫で見た貴絋の笑顔が、まるで別人だったこと。それが先程のパンを食べていた貴絋の雰囲気と一致したのだった。
「なんか口の中が甘い」
貴絋が不愉快そうな表情をする。
「さっき、りんごのパン食べたからじゃない?」
恐る恐る、そう言ってみる。貴絋はきょとんとしたあと何かを言い返そうとし、しかしその言葉を飲み込んだ。しばらく考え込んでから、もう一度口を開く。
「今……俺、ヘンだった?」
貴絋は、日本語のわからない外国人に話しかけるように、ゆっくりと聞いた。その顔は平然を装ってはいるが、どこか不安を隠しきれていない。
「すごくヘンだったよ」
光一が率直に言葉を返すと、貴絋は続けてこう言った。
「どんなだったか教えて。お前に悪いことした?」
「メンチ切られたよ。あとは、パンを食べてた。一部オネェ口調になった」
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