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「いいのよチカ。ありがとう。タカヒロの言う通り……。行きましょう」
焼き肉入りケークサレを紙袋にしまうと、二人は貴絋の前から去っていった。後味の悪い不穏な空気だけを残して。
貴絋は横目で光一を見ながら聞いた。
「今の、俺が悪いのか」
「すこし冷たかったかもね」
「じゃあどーすりゃよかったんだよ……」
『女の子を泣かしちゃダメ』
ララの声が頭に響いたのを感知した瞬間、貴絋は席を立った。
「辻くんどこ行くの!? もう先生来ちゃうよ!」
「ララが出た」
光一の心配もよそに、貴絋は走って教室から出ていってしまった。
男子トイレの個室に入った貴絋は、洋式便座の蓋に腰かけると、ララと話そうと息巻く。
朝起きたとき一番最初に目に入ったのが算数のノートだった。
確かに自分の字ではない、言うなれば大人の女性のような綺麗な字でこう書いてあった。
『ごめんね』と。
何がごめんなのか。謝るくらいなら余計な心配をかけさせないでほしい、それに、自分にだって言うことがある――本当はもっと先に伝えなければならなかった事が。
『お菓子を作るって結構大変なことなのよ。あの子の作ったブラウニーを食べたわ。とってもおいしかった。食べる人の事を思って作った味だったよ』
ララはそう言った。
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