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「先生君の言ってること、意味がわからないな」
花枝は笑っているが、その指先には力が込められている。
光一はすでに箸を置いていた。「意思を曲げるつもりはない」口には出していないが、その瞳がそう訴えかけている。
「みんな食べたのよ。とってもおいしいんだから。騙されたと思って食べてみて」
「そう言われて騙されたためしがありません」
花枝は頭を抱えた。光一を除くクラス全員が目標を達成したというのに、彼だけを特別扱いしてしまうと示しがつかない。かといって説得する術も思い付かない。
どうしたものかと足元に目を落としたとき、教室の空気がすっと流れた。閉まっていたドアが開いたのだ。
怪訝な顔をしながらも躊躇なく教室に踏み込んできたのは貴紘だった。なぜかランドセルを背負っていたが、それをロッカーにしまうと光一の隣の自分の席へと座る。
「まだ食べてんのか。咀嚼遅すぎだろ」
花枝は彼のこの発声をとても意外に思い、同時に少し安心した。貴絋が休みがちなせいで、クラスメイトとまだうまく打ち解けていないことを少し懸念していたからだ。
そして貴絋の言葉を受けて、光一の凛とした表情が緩んだのも見逃さなかった。
「僕これ嫌いなんだ。でも食べなきゃ先生の立場がなくて」
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