焼きうどん

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 どうしても気が進まなかった。一時間ほど前ララを怒ったばかりなのに、その彼女の力を借りようとしているだなんて。「助けてください」なんて口が裂けても言えない。だけど、もう方法がそれしか思い付かないのだ。  なんで自分がこんなことをしないといけないんだろう? 貴絋は自分に問いかけた。  朝、ダイアナを泣かせた。それがずっと心に引っ掛かっている。女の涙に弱いのは父親譲りなのか、それとも自分のオリジナルか。できればこんなときは父親のせいにしておきたい。  貴絋は味醂のコーナーに行くと、心の中でそっとララに呼び掛けた。 「頼みがあるんだけど。体貸すからレジ通ってよ」  舌を噛みたくなるほど悔しかった。こんなに屈辱的な感情を貴絋は知らない。 『あれれ? 私のこと殺すんじゃなかったの~?』 「……女泣かすなって言ったのお前だろ!」 『仕方ないわねぇ。じゃあ条件があるの』 「……なんだよ」  条件だと? 体とスペース貸してるこっちがショバ代払ってもらいたい。そう言いたいところをグッとこらえる。彼女の機嫌を悪くさせてはまずいし、何より時間が惜しい。 『ママとパンケーキ食べに行く約束、絶対に果たしてね。……あっ コラいま舌打ちしたでしょ!』  あんなのただの口約束だ。(自分が聞いたわけじゃないけど)  自分から話題にしなければ、母さんだってすぐに忘れるはず。  貴絋はそう考えて、ララの条件を飲むことを了承した。     
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