肉じゃが

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 それは、もう既にうどんですらなかった。麺の欠片も見えない。知らないうちに何かの召喚の儀式の手順を踏んでしまったのかと思えるほど、禍々しい物体が出来上がっていた。 「どうやったらそんなことになるの……」  貴絋以外の班員三名は、気の毒そうにその料理|(ですらないもの)を眺める。 「俺、フライパンとか洗うし」  料理を食べる時間を少しでも先延ばしにするため、率先して後片付けをする貴絋の背中には哀愁が漂う。もはや10歳の男児が醸し出せる悲しみの色ではなかった。  ――やっぱ俺には料理の才能ねーのかな。  汚れ落ちの悪い洗剤を多量に出している最中、肩をそっと叩かれて振り返ると、お約束のように頬を人差し指で指された。 「気安く触んな」 「タカヒロは何作ったの?」  ダイアナはそこに置かれてある真っ黒焦げの物体に視線を落とすと、「ワーオ」とわざとらしく沈んだ声で言ってみせた。 「チキンステーキを作ったのね! ちょーっとコゲてるけどおいしそうじゃない。あれ? でもタカヒロ、うどん買ってなかった? あ、ねぇこれ食べないの? 私食べていいかしら?」  その言葉に貴絋は握っていたフライパンを落とした。グワングワンと派手な音が響くが、貴絋は気にもとめていない。 「食べるって本気か?」 「もちろん! タカヒロの手作りなんだよね」     
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