肉じゃが

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 貴絋はもう一度失敗した焼きうどんを見たが、どう見ても常人が食べられる代物ではない。 「いただきます」  ダイアナは椅子に座ると、右手で十字を切ってから手を合わせる。  貴絋は呆気にとられ彼女を止めることすらままならない。一体誰が、このようなものを好んで食べる女がいることを予想できただろう。 「少し個性が強いけど、とっても美味しいわ」  貴絋は、もう明日の朝日は拝めないかもしれないダイアナの顔を、その目に焼き付ける。  なかなか根性のある女だと思った。 「いけない、全部食べてしまった。これではタカヒロの食べるものがなくなってしまう」  貴絋がフライパンを足元の戸棚にしまっている最中に、ダイアナはそう言った。 「別にいい」 「いけないわ、私達が作った肉じゃがとトレードしましょう?」  そう言ったあとすぐに気まずそうな表情を浮かべ、うつむく。 「調理師免許がないんだったわ」  貴絋が口を開こうとした瞬間、明吉がやってきて二人の間に入った。 「1班の肉じゃがオレ食べたい! 貴絋食べないんならオレにくれよ!」 「あら、いいわよ。丁度これが一皿分余っていたから」 「やったー!!」  明吉は、手塩にかけて可愛がってきたハムスターが脱走し、数日後ソファの下から無事に出てきてくれた時のように喜んだ。     
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