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貴絋は明吉の尋常でない喜び方を不思議に思った。彼はどちらかと言うと理性的な人間だ。人のものを横から攫うなどという下賎な真似をすることが信じがたい。何かよっぽどの理由があるに違いない、そんな淡いながらも確信めいた考えが貴絋の頭に浮かぶ。そして、この肉じゃがを明吉に譲ることがちっとも面白くないということに気が付いた。
「それ貸せよ」
貴絋は静かにそう言った。
「え?」
ダイアナと明吉が同時に声を上げ、貴絋を見つめる。
「た、貴絋いらないんだろ? オレにくれよ!」
「……いらないなんて言ってねえ、勝手に決めんな」
貴絋の言葉は、ダイアナの気分のゲージを最高まで引き上げるのに充分な燃料になった。彼女は明吉の手から肉じゃがの皿を奪い取ると、貴絋の座る目の前にそっと、それを置く。
「……ついでに朝の焼き肉入れたパンみたいなやつも持ってこいよ」
貴絋がダイアナにそう言った。
「え……? タカヒロ、食べてくれるの?」
「……冥土の土産にしな」
ダイアナが感動のあまり涙を流していることを、彼女の顔を見ることができない貴絋は知らない。
「いいえ、私は生きるわ……明日以降のあなたを見守るためにもね!」
ダイアナが喜び勇んで焼き肉入りケークサレを取りに行っている間、貴絋は恐る恐る肉じゃがに箸をつけた。
――なんだこれ……めちゃくちゃウマイじゃん……!
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