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本当に知らなかった。心当たりすらない。貴絋が時々会いに行く祖父は、正人の父だと言うことは知っていたが、真織の方の両親は――。
今までに会ったこともなければ、彼女の口から聞いたこともなかった。
□
放課後担任の花枝に職員室まで来るように言われた貴絋は、帰る支度をすませると大人しくそこへ向かった。
花枝のデスクは乱雑に書類やノートが配置されており、彼女の余裕の無さを、あるいはあまり几帳面でない性格を表しているように見える。
「何の用? 俺忙しいんだけど」
挨拶もなしにいきなりそう問いかける貴絋に、花枝は内心ため息をついた。こんなことを思ってはいけないのだが――正直この生徒はやりづらい。
「あのね辻くん。君だけなの。三者面談の希望日時を提出してないの」
「……サンシャメンダン?」
「お母さんにプリントちゃんと見せてる?」
そこまで聞いて貴絋は「あっ」と何かに気付いたような顔をした。あれほど痛い思いをしたと言うのに、連絡物を真織に渡さぬ癖は簡単には治らない。
「プリント、今日必ず渡してね」
そのプリントがどこに行ったのかも既に記憶になかった。
貴絋は、行事の連絡を真織にする事が、いつも心苦しくて嫌だった。参観日など、記憶にある限り知らせたことがない。
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