開花丼

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 説明の仕方がわからない。  貴絋はずいぶん長い間、時折こんな気持ちを抱えては、やりきれないわだかまりを胸に残し続けた。 「貴くん」  真織が放った優しい声に数秒遅れて顔を上げる。彼女の視線を受け止めると、それが返事となった。 「お母さんに遠慮なんかしなくていいのよ?」  真織の顔はきっと笑顔なのに、貴絋にはそれがとても寂しそうな表情に見える。 「別に……してねーよ」  それだけ言うのが精一杯で、情けない顔を見られまいと、わざと不機嫌そうに振る舞った。 「そっか、ごめんね。木曜日に学校に行くからね」  その日の夕御飯の味は全く感じられず、不味くもなんともなかったが、しばらくたってから胃がムカムカし始める。恐らく具材の玉ねぎに火が通っていなかった。  □  □ 木曜日  花枝を見つめる貴絋は無言であったが、彼女には、彼がこう言っているようにしか見えない。  ――余計なことを言うな。  彼の放つ物言わぬ視線は、どんな言葉による脅しにも敵わない圧力を感じさせた。  ――……コワイ。  年端もいかぬ小学生が、一体何を食べればそんなに恐ろしいガンを飛ばせるようになるのだろう? 花枝は純粋に浮かんだその疑問をはね除けると、彼の母親へにこやかな挨拶を返す。     
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