開花丼

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 母親はその隣にいる男児の親と思えないほど、柔らかな物腰の女性だった。二人はまったく似ていない。別れたと言う父親を花枝は見たことがなかったが、貴絋(この子)はきっと父親似なのだろうと勝手に推測した。  ――芯が強い―― 誉め言葉ではないと、貴絋は常々思っていた。  自分の"芯"を他の誰かに見せたことなんてない。それがどうして他人にわかる?  結局、歩み寄らない・心を開かない貴紘を、評価できない者達は決まって「芯が強い」ととりあえずラベルを付けておく。誰も傷つけない、貴紘の自尊心も守られると思っている、とても便利な言葉だ。  だけどそういう奴らを非難したりはできない。なぜなら、自分が悪いから。  例によって「忘れ物が多いけど、実は芯が強い貴絋くん」と評価を頂いた。 「最近ではお友だちも増えて、楽しそうに過ごしています」  ――ここは幼稚園か?  貴絋は始終無言でつまらなそうに二人のやり取りを聞き流していた。ときどき嬉しそうに微笑む真織が自分の教室に居るのはとても不思議な気持ちだった。だけど案外悪くもない。 「貴くん待って、一緒に帰ろう」  後ろも振り返らずさっさと歩く貴絋を、真織は小走りで追いかける。 「え……もう仕事行かねーの?」  思わず口にしたのであろうその言葉と表情はあまりにもあどけなく、普段の言動との格差を激しく感じさせる。真織はこのときの貴絋を、とても愛らしいと感じた。     
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