開花丼

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 離婚したことで、自分の心の整理はついた。だけど、貴絋は――。家族がバラバラになってしまうということが、子供にとってどれだけ心に負担をかけるのか、想像するだけで胸が潰れる。環境も変わる、生活も、名前も。そんなそぶりは見せないが、感受性の高い貴絋がどれだけの不安やストレスを抱えているのか計り知れない。  正人(前夫)から慰謝料と養育費を受け取っているとは言え、シングルで子供を育てていくとなれば、稼ぎはあるに越したことはない。それに真織は両親も頼ることができず、この地に頼れる知り合いもいない。今はいくらか余裕をもらっているが、稼げるうちに稼いでおかなければならないのだ。そのうちまた仕事の時間を増やすことになるだろう。  しかしそれが辛いとは真織は思っていなかった。貴絋がいるから頑張れる、それはもうずいぶん前から感じていたことで、いつしかそれは真織の骨となっていた。  □  ――マジでこんな店、入んのか。  貴絋は戦慄した。内装はほとんどピンク色で、ピンクでないものと言ったら観葉植物くらいのものだった。もちろん店内の客層はほとんどが女性。年齢層はさまざまだが、見渡す限り自分のような少年がいる気配は微塵も感じられない。入り口のドアを潜る随分前から、甘ったるい香りで胸焼けを起こしそうだった。 「予約の辻です」  ――いつの間に予約した……?  いつもトロいくせになぜこんな時にだけ仕事が早いのだろう。貴絋はそう思った。  席に案内され店内を歩いている途中に、頭の中でララに呼び掛ける。     
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