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自分も光一みたいな純朴な子供だったら、きっと母さんも、もっとやり易かったに違いない。そう思って少し後ろめたい気持ちになった。
「……来週山梨に、じーちゃんちに行くって」
やっと答えを返してくれた貴絋に安心して、真織は笑顔をこぼす。
「あら、いいわねぇ。貴くんもどこか行きたいところある? たまにはどこか遠くに行ってみようか」
貴絋は真織の瞳を見つめた。光一が祖父母の話をしてから、なぜかずっと気にかかっていた。真織の両親の事を。
今聞いたら、嫌な顔をされるだろうか? 迷う暇もなく、勝手に口は開く。
「あんたの両親は? 俺、見たことないけど」
そんな態度を取られるとは思っていなかった。そこまで深刻な話だったかと、聞いたことを少し悔やむ。
「えっ……」
真織は目に見えて動揺し始めたのだ。
「えっと……。それはね、あの、何と言うか……」
ただの素朴な疑問だったのに。しかし、何かまずい事を聞いてしまったらしい。
普段から素っ気ない態度を取りすぎてしまっていたせいで、まさか興味が自分に関する方に向かうとは思ってもいなかったようだ。明らかに用意されていなかった答えを、今取り急いで見繕っているようにも思える。
「別に言いたくないならいい」
貴絋は一応助け船を出した。本当に、どうしても知りたいというわけではない。
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