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「ちがうの! 別に話したくないってわけじゃないんだけど……色々複雑で」
「……死んだの?」
真織の困った様子が不憫で、早くこの話題を終わらせたいと思った。真織はしばらく押し黙ったあと、静かに言った。
「……そうだね」
彼女の表情には、暗い色も悲しみも見えない。
「ふーん」
貴絋はなるべく興味無さそうに呟いて、この空気を追い払おうとした。何か隠し事をされたという事実だけが感覚的にわかった。真織の罪悪感で揺れる瞳が、これ以上何も聞いてくれるなと懇願しているように見える。
次の瞬間、上からパンケーキが降りてくる。絶妙なタイミングに貴絋は内心ホッとした。
「お待たせいたしましたー」
ウェイトレスのユニフォームもどうせピンクだ。もう見なくてもわかる。
テーブルに置かれたパンケーキからは、真織からすれば心地の良い香りが、貴絋からすれば悪夢のような香りが、それぞれの鼻をくすぐった。
「大変よこれ! 笑えちゃうわ! おいしそうにも程がある!」
真織はまるで10代の学生のように嬉しそうにはしゃいだ。彼女の皿に比べたら貴絋の目の前の品など大したこともないように見えるが、彼にとってはこれを完食するのは苛酷な大仕事だ。
「クソ地獄……」
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