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徳重と呼ばれた男の表情に、貴絋は見覚えがあるような気がしてならなかった。この男のこと自体は知らないが、以前にもこんな感じを見受けた覚えがある。
「徳重さん休憩ですか?」
「ええ、実はここのオーナーと知り合いでして。なんとボク顔パスで入店できるんすよ!」
「まあ羨ましい」
楽しそうに笑う二人を見て、貴絋は一人疎外感を覚える。そんな彼の視線に気が付いたのか、徳重は貴絋を見ると笑顔を保ったまま真織に尋ねた。
「もしかして、息子さんすか?」
「ええ、そうなの」
真織の台詞が終わる前に、貴絋はそこへ立ち上がると徳重に向かって一礼してから言った。
「……辻貴絋です。母がいつもお世話になっています」
真織は目を丸くして貴絋を見つめていた。先に動いたのは徳重だった。彼も立ち上がると、貴絋に向けて頭を下げ、名刺を差し出しながら言う。
「自分は徳重 創と言います! お母様にお世話になっているのはこっちの方です!」
――こいつ体育会系だな。俺の苦手なタイプだ。
貴絋はそう思いながらも、礼を言うと徳重の名刺をよくわからないなりにできるだけ丁寧に受け取った。
――まあ、俺みたいな子供にも誠意のある挨拶をしてくるところは評価できる。
徳重はもう一度貴絋に笑いかけた。
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