19人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうでしょ? 優しくてとってもいい子なんですよ。私が言うのもなんですけど」
真織は恥ずかしそうに笑った。
自分の子供を敢えて悪く言うのが本当の"お母さん"なのだと貴絋は知っていた。少ない人生経験の中で会った友達のお母さんは、いつもそうする傍ら他人の貴絋を誉めた。
しかし真織はいつも、貴絋が他人に誉められれば素直に受け取り、愚息などという言葉を使ったことすらない。
それは真織の純粋な気持ちだったが、貴絋はそれを皮肉と受け取った。
「やっぱり~! 貴絋くん、お母さんはねいつも会社でも優しいんだよ。この前なんかね……」
しばらく徳重の独擅場が続いたあと、時間が来たのか彼はせわしなく慌てて去っていった。結局徳重はコーヒーを半分ほど飲んだだけだった。
貴絋はほとんど冷えきってしまったパンケーキを見て、つくづく不味そうだなと改めてそう思う。
「貴くん……ごめんね」
真織が申し訳なさそうに謝った。
「別に……。まぁうるせーオッサンだとは思ったけど」
貴絋の言葉に真織は思わず噴き出す。
「そ……そうだね」
時に歯に衣を着せない貴絋の言い草は、的を射ていて痛快に感じる。真織は日頃の鬱憤を晴らすように笑ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!