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しかし動悸は治まらなかった。よじ登ってこようと思えば登れる泥棒もいるかもしれない。
――もし、この家の中にそいつがまだいたら? 警察か? 通報か……待てよ。警察は24時間営業なんだっけ?
動揺しすぎて冷静になれない。
貴絋は心を落ち着かせようと深呼吸を試みた。部屋のドアへ足音をたてないように近づき、耳を澄ませる。物音はない。人がいる気配も……たぶん、ない。
――でもこんなとき、母さんがちょうど仕事から帰ってきて、玄関から逃げる泥棒と鉢合わせて殺されるのが漫画とかの定石。さすがにそれは、マズイ。
母が帰るまであと一時間はあるが、こんな日に限ってなんらかの奇跡が重なり、通常より早く帰ってくるのも漫画の定石だ。
「……なんとかしねーと」
貴絋はドアに張り付くと、今まで生きてきた中で一番静かに、それでいて慎重に、ドアノブを落とした。その瞬間、自分の手を見て驚愕する。
右手は傷だらけで血まみれだった。
「なんだよこれ」
不思議なものでさっきまでは何も感じていなかったというのに、その痛ましい右手を目で認識したことにより、突然痛みを感じ始める。
なぜこんなことになったのだろう。まるで何かが刺さったかのような切り傷が目立つ。一体いつ。どうやって。
「まさか」
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