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貴絋は泥棒のことなど忘れて再び窓に駆け寄った。どうしてこんなことに気づかなかったのか。ガラスの割れた破片はベランダへ。つまり、部屋の外に落ちている。要するに部屋の中から割ったということだ。
そもそも泥棒だとしたら、ご丁寧に窓を閉めて鍵まできっちりかけてくれるハズがない。
「……俺が割った?」
ズキズキと右手の痛みを感じながら、貴絋はリビングへ向かった。当然ながら誰もいない。
貴絋はソファに浅く腰かけると、改めて右手を凝視した。
「まじかよ。痛えな」
乾いた血が固まって、動かすとパリパリと剥がれる感触に鳥肌がたった。訳がわからなくて、痛いし、怖い。泣きそうになった。
□
「貴くん! 貴くん!?」
貴絋が気がつくと、血相を変えた母親の顔が目の前にあった。あのままソファで寝てしまったのだ。
「……今何時?」
「貴くん大丈夫!? ひどいけがよ。病院へいかなきゃ、着替えて」
言われて思い出す。夢だと良かったのに、そう思って右手を見る。まだ痛かった。
「……一人で行ける、ババア寝とけよ。保険証貸して」
「だめだよ! 車で行くから支度して」
窓ガラスを割ってしまったという罪悪感と、いまだに信じがたいこのケガのせいで、反抗する気力が失せている。右手をなるべく動かさないように服を着替えることは思ったよりも難しかった。
車に乗ってすぐに母親が口を開く。
「痛いでしょう。急ぐからね、もう少し我慢して」
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