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凄まじいダイアナのシュートと、それを受け止める貴絋の怒濤の展開の一部始終を見守っていたクラスメイト達は、すぐにでも二人に駆け寄り称賛の声を浴びせたかった。だが、二人のただならぬ雰囲気に近付けないでいる。なんかモメてんぞ……。気になるけど誰もが一歩を踏み出せないでいた、その時。
遠くで明吉が手を振る。
「おーい貴絋ボール回せよー!」
チカにカッコいいところを見せたいだけの明吉が空気を読まずに声を上げた。
まだ試合中であった。貴絋は回りを見た。とりあえず一番最初に目についたのが同じチームの直也で、彼にボールを投げる。すると直也はうまくパスを受けとることができず、なぜか膝裏でボールをうけるとそこへうつ伏せに倒れてしまった。
「あ、やっちまった。タイム」
貴絋は咄嗟に直也に駆け寄る。
「何やってんだよどんくせーな、大丈夫か?」
「うん、ごめん……」
ずれた眼鏡を直しながら顔を上げた直也の鼻からは、鮮血がたらりと滴っていた。
「……立てるか?」
うん、と頷きながら直也はゆっくりと立ち上がる。そこへ光一が駆け寄って来た。
「直也、大丈夫?」
「保健室つれてくから。光一、キーパー頼む」
貴絋は光一にそう告げると、直也をフィールドの外へ連れ出そうとして振り返る。
「……お前も来い」
まだ泣き続けているダイアナの腕を取ると、貴絋は複雑な気持ちを抱えながらグラウンドを後にした。
三人はほとんど無言で保健室までたどり着く。その間貴絋は自分の不可解な行動を振り返るがどうにも腑に落ちない。
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