フレンチトースト

1/10
前へ
/389ページ
次へ

フレンチトースト

「貴絋! どっちが牛乳早く飲めるか勝負しようぜ!」  六月にしては少し暑い日であった。給食をあらかた食べ終えた頃、明吉が牛乳パックを片手に貴絋の前に現れた。 「なんだよお前。最近やたら絡んでくるな……所属のイケてるグループの奴等とやってろよ」 「オレはな……子供と違って牛乳は最後に飲むタイプなんだ。それが大人の嗜みってもんだろ……それに牛」 「用意、スタート」  貴絋のアイコンタクトにより光一が右手を上げた。 「おいズリーぞ!!」  ストローを既に差していたとはいえスタートダッシュに遅れをとってしまった明吉は急いでそれを口にするが、小癪な貴絋に一発喰らわせねばなるまい。明吉はこの勝負を捨てる決意を早々に決め、牛乳を思い切り口に含んだ貴絋の前で、素晴らしく珍妙な顔をして見せた。  一瞬真顔になった貴絋の視界が白く染まるまで、まるでスローモーションのように時が流れる。あまりの面白さに貴絋は腰を抜かし、掛けていた椅子ごと後ろ向きに倒れる。まだ喉を通過していなかった牛乳は、本来行くべき道を歩まず、稀に見る貴絋の愉快な笑顔と共に逆流した。それは美しい弧を描き、貴絋の前の席の直也へと降り注ぐ。     
/389ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加