カレー

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 貴絋は面食らった。どうしてケガした理由を聞かないのだろう。それが余計に罪悪感を膨らませる。 「……ごめん」  この言葉を言うことがとてつもなく嫌いだった。ましてや自分が悪いと思っていないのに言わなくてはならないのが。  それでも、夜勤明けの疲れきった母親に迷惑をかけてしまったこと、割れた窓の面倒を考えると、黙っていることも同じくらいにイヤなことに思えた。  しかし母親はそれには答えず、貴絋の方をちらりと見たあと思い出したように言った。 「病院へ着いたら学校に電話しなきゃね」 「なんで」 「今日は学校行けないでしょ、休んだら? 病院も混んでるだろうし、行けても午後からね」  貴絋の頭に、すぐに光一の顔が思い浮かんだ。 「俺行くよ」 「そう……お友だちと約束でもしてるの?」  今日は水曜日。カレーとプリンの日だ。今週は全部登校すると光一に話した。  貴絋は考える。  あれは約束のうちに入るだろうか?  それでも自分が休んだことで、がっかりする光一の姿は想像できない。別に友達でもない。休んだって何も変わらない。なら、別にいいか。 「……やっぱり、帰ったら寝る」  プリンやカレーが食べたかった訳じゃない。正直に言って給食は全然美味しくない。     
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