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そういう考えが浮かんでは、彼の教室での様子を時々観察するようになった。しかし苛められているだとか、そんな様子は微塵もない。
たまりかねて貴絋は、早朝の教室でそれとなく光一に尋ねた。
「なあ、直也って」
「最近元気ないよね」
彼の名を出した途端、すぐに光一はそう答えた。
「辻くんって直也の事苦手でしょ? でも最近やたらと気にしてるし……僕も直也の事心配してんだ。なんだかいつもより元気ないみたい」
光一は、他人の事をよく見ている。貴絋は直也の元気がないという事に全然気付いていなかった。それに自分が直也を気にしていたことも全てバレていたことに心底驚いた。
「直也んちの父さん、四月から転勤で単身赴任してるんだ。それで寂しくなっちゃったのかな……」
「へえ」
「でも辻くんがそんな風に気にするのって珍しいね、直也と何かあったの?」
「……別に」
光一も何も知らないようだ。もしかしたら本当に蚊に刺されただけなのかもしれない。だけどそれなら、誰にも言わないで、なんて言うだろうか?
一度、ララが呟いたことがあった。
『このままでいいの?』
そう言われたって、どうしようもない。はっきり言って直也とはそこまで仲良くない。光一の友達だから、たまに一緒にいるだけだ。
『あんたの不安がザワザワ響いて居心地悪い』
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