フレンチトースト

5/10
前へ
/389ページ
次へ
 関係ないと言われたんだ。それに俺は、あいつが好きじゃない。  なのにずっと落ち着かない。ずっとすっきりしない。  その日、なぜか直也は眼鏡をしていなかった。光一がそれを尋ねると、彼は困ったように笑ってから答えた。 「無くしてしまった」と。  貴絋の心の中で、今まで気付かないようにしていた胸騒ぎが特別大きくなっていくのを、この時はっきりと自覚した。何度も光一に話そうか迷った。しかし言えなかった。  誰にも言わないでと言ったときの直也の瞳が、貴絋の口を塞ぐ。  帰りの会で花枝が児童達に注意を促した。隣の区で不審者が出たと。なるべく一人で帰らないように、変な人に遭遇したら大声を出す、防犯ブザーを鳴らす、近くの大人に知らせるなど、ありきたりのことを何度も念を押して話す。  物騒だがこう言った話しは珍しいものでもなかった。少し変な人が子供に話しかけただとか噂が流れるだけで、大人は大騒ぎし、警察までもが通学路を巡回する。貴絋は別段怯えることもなく、帰り道を共にする相手を探そうともしなかった。何の根拠もないが、不審者と遭遇してもなんの被害も被らない自信がある。それにそういう変質者に狙われるのは大抵女の子か、男でも大人しそうな光一みたいな奴らだ。     
/389ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加