フレンチトースト

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「お前な……」  ララの言葉を聞き、どこか違和感を覚えた。あのとき何度も呼んだのに出てこなかったララが、どうしてベリーのパンケーキを知っているんだろう?  貴絋が口を開きかけたとき、ドアが勢いよく開く。パティシエの調理服に着替えたダイアナが、仰々(ぎょうぎょう)しいワゴンに何やらたくさん皿を乗せて現れた。 「焼いてきたわよ! さぁあタカヒロ! 胃袋を掴まれなさいッ!」  ざっと見ただけでも五種類以上はあるスイーツの品々に目を奪われる。こんな短時間に焼けるものなのか。そんなことを気にしているのは貴絋の方だけである。何か言葉を発しようとしたとき、フッと意識が遠退く気配がした。 「超オイシそーじゃーん!」 「でしょ? な・ん・と。今日の食材はぜーんぶオーガニックよッ!」 「うそー! すごーい! 女子力たかーい! 目の付け所が違うー!」 「さあ召し上がれ」 「いただきまーす! おいしー! サイコー!」  貴絋の形をしたララは、ダイアナの手作りスイーツを思う存分楽しんだ。ダイアナは、それはおいしそうに喜んで食べてくれる貴絋の笑顔に陶酔した。  ――この笑顔がとっても見たかったの! 可愛いなんて言ったら、怒ってしまうかしら?     
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