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チキン南蛮
真織から電話があった。
どうしても今日中に終わらせなければならない突発の仕事ができたから、今日は帰りが遅くなると。
以前はこういうことがよくあった。そんな日は、貴絋は気ままに一人で外食をしたり出前をとったりと、非日常的な夕食を楽しむ。
しかし最近になって真織は夜勤も止め、帰りも随分早くなった。貴絋が窓ガラスを割ったあの日から、真織との距離が近くなったように感じる。
受話器の奥から、真織の心底すまなそうな声の謝罪が聞こえる。しかし彼にとってはなんの問題もないことだった。明日は休みだし、真織がいなければ遅くまでゲームもできる。
貴絋は受話器を置いた足で早速夕食を買いに出掛けた。
――なんか無性にチキン南蛮が食べたい気分だ。
ファミレスでもいこうと近道の公園を抜けていく。そう言えば、ララはダイアナの家で変なことをしていないだろうな? 今更ながらにそんなことを思い出す。
まあ、どうでもいいか。
聞こえてくる波の音が、頭の中にある色んなことを打ち消していくように、耳に触れては消えていった。
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