カレー

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 貴絋は、光一と交わしたあやふやな約束と、彼が楽しみだと言ったその時間を少し共有してみたかった。それだけのことだ。  □ 「朝起きたら窓が割れてて、気が付いたらこうなってた。別に信じてくれなくてもいいけど自分で割った記憶はない。でも、たぶんこの手でガラスを殴った時にできた傷だと思う。覚えてねーけど」  どうしたのかと医者に聞かれたので、貴絋は正直に話した。横でそれを聞いていた母親の真織(まおり)は途端にうろたえ始める。 「えっ……貴くんそれどういうこと……?」 「……貴くんって呼ぶな」  貴絋はさも不機嫌そうに舌打ちをすると、真織から顔を背ける。  整形外科の待合室で貴絋は待たされた。診察室で処置を終えたあと、先に出て待つように言われたからだ。ケガ自体はそこまで深い傷ではなかったらしい、見た目のわりには。  母親はまだ診察室で薬や症状の説明を受けている。     
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