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前方のベンチに誰かが座っている。日常ではよく見る光景だ。ただそれが貴絋の目をひいた理由は、そこに座っている人物が見覚えのある少年だったからだ。
「何してんの」
貴紘はベンチに座っていた直也に声をかけた。直也は俯いていた顔を上げると、びっくりしたまま体を硬直させた。
「こんな所で。こんな時間に」
今日の貴絋は攻める。眼鏡をなくしたなどと恐らく嘘だろう。直也の顔を見るたびに思い出される体のアザ、こいつはおかしい。何かを隠している。ここで会ったということは、俺がコイツの何かを暴かなければならないということだ。
「変質者が出るかもしれないって、先生が言ってたろ。一人で出歩くなって」
時刻は18:50。恐らく一般的には、10歳の門限はとうに過ぎている。
「きみだって……人のこと言えないじゃない」
貴絋は直也の右隣に座った。直也は右に傾けていた顔を、瞬時に左側へ向ける。
「俺には家庭の事情ってモンがあんだよ」
「……おれだってそうだよ」
直也が、ぎゅっと拳をにぎりしめるのを貴絋は見ていた。何を抱えて、何を守っているのか。その細い肩が僅かに震えている。
「お前んちどこ? もう帰れば?」
「……帰らないよ、辻くん先に帰ってよ」
直也が貴絋から逃げようとベンチを立ち上がった瞬間に、彼のお腹がぐうと鳴った。
「夕飯まだなのか? 俺もだけど」
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