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直也は眉をしかめたまま、ウンと頷いた。核心に迫らないところではムダな嘘をつかない所が、かえって直也らしい。つけない、と言った方が的確かもしれないが。
「何か食べに行く?」
貴絋も立ち上がった。直也は気まずそうな顔で、恐る恐る貴絋に告げる。
「おれお金ない……」
「俺が持ってる、行こ」
貴絋はファミレスを目指して歩くが、三歩ほど歩いてもまだ直也はついてこなかった。
「おれ、行かない……」
「なんで。どーすんの? ずっとここにいんのか? 夜になるよ? 変質者に拐われて外国に売り飛ばされてもいいのか?」
「うん……その方が、いいかも……」
直也は泣きだした。それでも貴紘は驚かなかった。ベンチに座っていた直也を見つけたときから涙こそ見えなかったものの、彼がとても悲しそうな顔をしていたから。
「……お前、料理できる?」
脈絡のない質問に、直也は真面目に泣きながらも答えた。
「卵焼き、なら……」
チキン南蛮は諦めた。
「じゃ俺がお前のこと誘拐するけど」
貴絋は泣き止まない直也の手を引いて、自宅の方角に向きを変えた。なかば無理やり引っ張るような形で歩いていく。でもその方がきっと誘拐らしい。
しばらく歩いてやっと公園を抜けたとき、視線を感じて思わず振り向く。後ろから女性が鋭い目線でこちらを見ているのがわかった。
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