チキン南蛮

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 貴絋の体を借りたララは小さく呟いたあと、大きく息を吸い込む。それを思い切り、悲鳴と共に吐き出した。 「誰か助けてェ!! この人が友達を連れていこうとしています!!」  鳴り響くブザーの音と少年の悲鳴、たちどころに事態は急転する。辺りに集まる大人たちは子供を守るため、不審者を一気に囲いこんだ。思いの外大勢の人間が集まってしまった。 「行こう!」  ララは直也の手を取り、もうすぐそこに見えていた貴絋のマンションに駆け込む。急いでエレベーターに乗ると、閉めるボタンを何度も押した。  玄関のドアを開けて直也を招き入れる。靴を脱ごうとしたところで、まだ彼の手を握っていたことに気がついたララは、やっと自分の心がここになかったことを知った。 「ごめんごめん、さあ上がって」  手を離し、直也の背後に回ると彼の背中を軽く押した。 「おじゃまします……」  直也は自然と廊下の先のリビングを見た。部屋は暗くて、とても静かだ。 「お家の人、いないの……?」  直也はおずおずと聞いた。 「うん、遅くなるみたい。それよりご飯作ろうよ! お腹すいたでしょ?」  ララはキッチンへ向かうと、冷蔵庫の中身を調べた。鶏もも肉あり、玉子あり。 「オレ、チキン南蛮作るから、直也はごはん炊いて卵焼き作ってよ。出来る?」 「……頑張る」     
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