19人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言ってリビングを出ていった貴絋が帰ってきたのは数分後、さっきまでの雰囲気とは一変した、彼の眉間には深いシワが刻まれていた。
――記憶がない……。気付いたらトイレの中だった。
またララに助けられた。
貴絋は、先ほど絡まれた不審な女性のことを思った。話から察したのは、彼女が真織の母親である可能性だった。死んだと聞いたとき、恐らく嘘だろうとは薄々思っていたが、実際につかれた嘘だったと感じたとき、応えた。結局何一つ本当のことを話してもらえないのだ。
それでも、ドアを開けた瞬間の美味しそうな香りに少しばかりの安らぎを感じた。
直也はテーブルの席にちょこんと座って、貴紘の顔を心配そうに見つめている。
そのテーブルの上には貴絋が食べたかったチキン南蛮、お味噌汁、卵焼きが並んでいた。
「どーしたのこれ? お前作ったの? スゲーな」
貴紘は驚いて直也の顔を見た。
「どうしたのって、さっきまで一緒に作ってたでしょ……?」
直也も不思議そうな顔で貴紘に答える。
ああ、またララが。
貴絋は、薄々勘づき始めていたララの真意に心を打たれた。
いつもあいつは俺に迷惑をかけるフリをして、俺を助ける。
今、落ち込んでいなければ、きっとこんな気持ちにはならなかったのに。
――おせっかいな女。
最初のコメントを投稿しよう!